デジタル化に関する法制度の備忘録

行政手続等のオンライン化やキャッシュレス化など、デジタル化に関する法制度について書いてます。

デジタル社会形成基本法(2021年)について

(デジタル社会形成基本法とは?)

 「デジタル社会形成基本法」とは、デジタル社会の形成に関して、基本理念や基本的な施策の枠組みを定めている法律です。2021年に、IT基本法が廃止され、新たに、このデジタル社会形成基本法が制定されました。

 基本法の改正については、2006年の教育基本法改正で、法律全部が改正された例や、2020年に科学技術基本法が(名称も含めて)一部改正されて、科学技術・イノベーション基本法になったような例がありますが、この法律の場合は、デジタル社会形成基本法の新規制定と、IT基本法の廃止という形がとられています。既存の法律の「全部改正」や「名称等の改正」ではなく、「廃止・新規制定」という形が取られたのは、法律制定の理念や基本趣旨の転換が図られたということの表れかなと、個人的には思っています。

 

(趣旨)

 さて、このデジタル社会形成基本法の趣旨ですが、法案の説明資料では、以下のように説明されています。

 

 デジタル社会の形成が、我が国の国際競争力の強化及び国民の利便性の向上に資するとともに、急速な少子高齢化の進展への対応その他の我が国が直面する課題を解決する上で極めて重要であることに鑑み、デジタル社会の形成に関する施策を迅速かつ重点的に推進し、もって我が国経済の持続的かつ健全な発展と国民の幸福な生活の実現に寄与するため、デジタル社会の形成に関し、基本理念及び施策の策定に係る基本方針、国、地方公共団体及び事業者の責務、デジタル庁の設置並びに重点計画の作成について定める。

 

 前半部分は、法律制定の目的となる部分だと思いますが、この基本法で定める主な内容は、赤字の部分にある、基本理念や基本方針、国・地方自治体・事業者の責務、デジタル庁の設置、重点計画の作成、といったところのようですですね。

 

(デジタル社会形成基本法の概要 )

 次に、デジタル社会基本法の概要ですが、法律の構成は以下の通りとなっています。

 

目次
第一章 総則(第一条・第二条)
第二章 基本理念(第三条―第十二条)
第三章 国、地方公共団体及び事業者の責務等(第十三条―第十九条)
第四章 施策の策定に係る基本方針(第二十条―第三十五条)
第五章 デジタル庁(第三十六条)
第六章 デジタル社会の形成に関する重点計画(第三十七条・第三十八条)
附則

 

 IT基本法の構成と見比べてみると、第2章、第3章が増えていますが、これは、IT基本法では、総則の中で書かれていた内容を充実して、別の章立てにしたような形になっています。

 まず、第1章の総則で最も重要なのは、「デジタル社会」の定義を定めた第2条で、 「デジタル社会」を、「インターネットその他の高度情報通信ネットワークを通じて自由かつ安全に多様な情報又は知識を世界的規模で入手し、共有し、又は発信するとともに、先端的な技術をはじめとする情報通信技術を用いて電磁的記録として記録された多様かつ大量の情報を適正かつ効果的に活用することにより、あらゆる分野における創造的かつ活力ある発展が可能となる社会」と定義しています。

 次に、第2章の「基本理念」では、デジタル社会の形成について、「ゆとりと豊かさを実感できる国民生活の実現」(第5条)、「国民が安全で安心して暮らせる社会の実現」(第7条)といった10個の理念が定められており第3章では、国、地方自治体、事業者の責務等が定められています。これらは、先程も書いたとおり、IT基本法では、総則に位置づけられていました。

 第4章の「基本方針」では、「多様な主体による情報の円滑な流通の確保」(第22条、データの標準化等)、「国及び地方公共団体の情報システムの共同化等」(第29条)、「国民による国及び地方公共団体保有する情報の活用」(第30条)、「公的基礎情報データベースの整備等」(第31条、ベースレジストリの整備等)といった内容が定められています。IT基本法に掲げられていた基本方針と比較すると、こうしたデータの利活用に関する内容が充実しています。2016年には「官民データ活用推進基本法」も制定されていますし、データの利活用に関する社会的要請の高まりが見て取れますね。

 第5章のデジタル庁の設置は、IT基本法の下でのIT戦略本部に代わる組織の設置で、第6章の重点計画は、IT基本法でも、同様の計画を定める規定があったところです。

 最後にさらっと書いてしまいましたが、推進組織が、内閣官房に置かれる本部から、独立したデジタル庁という省庁に格上げになったことは、大変重要なことですし、デジタル庁設置法第8条では、デジタル大臣の他の大臣に対する勧告権が定められるなど、その権限も強化されているところです。

 

 以上、駆け足でしたが、基本法の大まかな内容はご紹介できたのではないかと思います。実は、2021年には、デジタル社会形成基本法、デジタル庁設置法と同時に、デジタル社会形成整備法と呼ばれる法律も審議・制定されています。このデジタル社会形成整備法では、行政手続で求める押印を不要としたり、民民間で書面交付が定められていた手続のデジタル化を可能とするような個別法の改正等が行われており、2000年のIT基本法、IT書面一括法の時と似た法整備になっているのですが、また機会があれば、ご紹介できればと思います。(2021年の法整備は、デジタル改革関連法案と検索すると見つけれれます。)

 

(参考)

www.digital.go.jp