デジタル化に関する法制度の備忘録

行政手続等のオンライン化やキャッシュレス化など、デジタル化に関する法制度について書いてます。

第208回国会で成立したデジタル化関連法(4)道路交通法、民事訴訟法

道路交通法の一部を改正する法律)

 道路交通法の改正法は、4月13日に成立し、27日に交付されました(法律第32号)。

 警察庁の作成している参考資料を見ると、今回の法改正の内容は、以下の3点となっています。

1 特定自動運行に係る許可制度の創設

2 新たな交通主体の交通方法等に関する規定の整備

3 運転免許証と個人番号カードの一体化に関する規定の整備

 

 1つ目の「特定自動運行に係る許可制度を創設」では、自動運転のレベル4に相当する、運転者がいない状態での自動運転(特定自動運行)を行おうとする者について、都道府県公安委員会の許可を受けなければならないこと等を新たに定めています。例えば以下のような条文が新設されています。

(特定自動運行の許可)
第七十五条の十二 特定自動運行を行おうとする者は、特定自動運行を行おうとする場所を管轄する公安委員会の許可を受けなければならない。

2、3 (略)

 

 2つ目の「新たな交通主体の交通方法等に関する規定の整備」では、電動キックボード等のことを報道等で目にする気がしますが、遠隔操作型小型車(自動配送ロボット等)の交通方法等についても、新たにルールを定めています警察庁の参考資料の抜粋ですが、以下の通りとされています。

◯遠隔操作により通行する車であって、最高速度や車体の大きさが一定の基準に該当するものを「遠隔操作型小型車」とし、歩行者と同様の交通ルール(歩道・路側帯の通行、横断歩道の通行等)を適用する。

◯遠隔操作型小型車の使用者は、都道府県公安委員会に届け出なければならないこととする。

 自動配送ロボットは、歩行者と同様の交通ルールなんですね。まあ、それはそうか。。

 

 3つ目の「運転免許証と個人番号カードの一体化に関する規定の整備」は、マイナンバーカードと運転免許免許証の一体化に関するものですね。条文を見ると複雑で後悔しそうですが、ごく一部だけ紹介すると以下のような感じです。

(特定免許情報の記録等)
第九十五条の二 免許(仮免許を除く。以下この条において同じ。)を現に受けている者のうち、当該免許について免許証のみを有するもの並びに免許証及び第四項に規定する免許情報記録個人番号カードのいずれをも有しないものは、いつでも、その者の住所地を管轄する公安委員会に、その者の個人番号カード行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(平成二十五年法律第二十七号)第二条第七項に規定する個人番号カードをいう。以下同じ。)の区分部分(同法十八条に規定するカード記録事項が記録された部分と区分された部分を言う。以下同じ。)に当該免許に係る特定免許情報を記録することを申請することができる

2〜12 (略)

 

 より詳しい情報は、警察庁のHPをご参照ください。

www.npa.go.jp

 

民事訴訟法等の一部を改正する法律)

 民事訴訟法等の改正法は、5月18日に成立し、25日に公布されました(法律第48号)。

 改正内容について、提出理由から抜粋すると、「民事訴訟手続等の一層の迅速化及び効率化等を図り、民事裁判を国民がより利用しやすいものとする観点から、電子情報処理組織を使用して行うことができる申立て等の範囲の拡大、申立て等に係る書面及び判決書等を電子化する規定並びに映像と音声の送受信による口頭弁論の手続を行うことを可能とする規定の整備、」「離婚の訴えに係る訴訟等において映像と音声の送受信による手続で和解の成立等を可能とする規定を整備する」とされています。

 行政手続において書面や対面を求める手続の見直しが、デジタル臨調で進められていますが、民事裁判の手続のデジタル化も、かなり進められているのですね。

 特に、今回の改正にある判決書の電子化については、行政手続の交付行為のオンライン化に関する取組にとって、先行的なものとなるのではないかと勝手ながら思いました。ちなみに、電子判決書の条文は以下の通りとなっています。

(電子判決書)
第二百五十二条 裁判所は、判決の言渡しをするときは、最高裁判所規則で定めるところにより、次に掲げる事項を記録した電磁的記録(以下「電子判決書」という。)を作成しなければならない
一 主文
二 事実
三 理由
四 口頭弁論の終結の日
五 当事者及び法定代理人
六 裁判所

2 (略)

 

 また、先程抜粋した提案理由の中には記載がありませんでしたが、電磁的公示送達の規定も、今回の改正で新たに設けられています。公示送達のデジタル化に関する法改正については、デジタル臨調の第5回作業部会(3月15日開催)でも紹介されていました。(行政手続法の公示送達の先行事例的なものとして、取り上げられたものと思われます。)

 具体的な条文は、以下のとおりです。

(公示送達の方法)
第百十一条公示送達は、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める事項を最高裁判所規則で定める方法により不特定多数の者が閲覧することができる状態に置く措置をとるとともに、当該事項が記載された書面を裁判所の掲示場に掲示し、又は当該事項を裁判所に設置した電子計算機の映像面に表示したものの閲覧をすることができる状態に置く措置をとることによってする
一 書類の公示送達 裁判所書記官が送達すべき書類を保管し、いつでも送達を受けるべき者に交付すべきこと。

二 電磁的記録の公示送達 裁判所書記官が、送達すべき電磁的記録に記録された事項につき、いつでも送達を受けるべき者に第百九条の書面を交付し、又は第百九条の二第一項本文の規定による措置をとるとともに、同項本文の通知を発すべきこと。

 

www.moj.go.jp

 

最高裁判所規則での押印の扱い等)

 少し話が脱線しますが、民事訴訟法の改正については、これから最高裁判所規則などで運用の詳細が定められると思うのですが、電子判決書の押印は、どうなるのでしょうか。個人的には、とても関心があります。

 行政機関で発行する証明文書などは、公印が必要だからデジタル化できないという話をよく聞きますし、公印使用の見直しを積極的に進めている地方自治体でも、①許認可等の処分文書、②事実証明の文書、③権利義務関係の文書(契約書等)、④法令等の規定で押印が必要な文書、⑤その他特に必要な場合(表彰状等)については、公印の押印が残っている例が多いです。このような状況で、今後、行政機関が公印の見直しを進める際などにも、電子判決書での押印の扱いは、先行的な事例として、参考になるのではないかと思うためです。

 このため、少し調べてみたのですが、今回の民事訴訟法改正の検討段階で、法務省の「民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する中間試案」(令和3年2月19日)の補足説明の中に、以下のような記載がありました。

 

⑵ 電子判決書への本人性及び非改変性を確認することができる措置

 現行法上,判決書の原本には,判決をした裁判官の署名及び押印が要求されている(規則第157条第1項)。これは,判決書が判決の内容を公証する極めて重要な文書であることに鑑み,作成主体の明示,真正な作成を担保するためであると考えられる。

 そこで,電子判決書には,その作成主体を明示し,改変を防ぐための措置(例えば,電子署名法第2条第1項に定義される電子署名など)をしなければならないことを提案している。なお,電子署名に限定していないのは,現在の電子署名の証明書の有効期間が数年であることに加え,今後,技術の発展によって現在の電子署名よりも更に適切な方法が出てくることも考えられることなどからである。

 

 赤字は、僕の方で勝手に色をつけたのですが、現行法上、判決書に裁判官の署名・押印が必要とされている点について、電子判決書では、改変を防ぐための電子署名などの措置をとることが想定されているようですね。今後の検討を関心を持って見守っていきたいと思います。

 

 以上、少し長くなりまったので、今回はここまでにしたいと思います。思いのほか、長くなってしまいましたが、とても大事な改正だと思ったもので、、お許しください。

 

(参考)

www.digital.go.jp

www.moj.go.jp