デジタル化に関する法制度の備忘録

行政手続等のオンライン化やキャッシュレス化など、デジタル化に関する法制度について書いてます。

第208回国会で成立したデジタル化関連法(6)AV出演被害防止・救済法、在外教育施設教育振興法

(性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図り及び出演者の救済に資するための出演契約等に関する特則等に関する法律)

 非常に長い法律名ですが、衆議院法制局の概要資料を見ると略称は、「AV出演被害防止・救済法」のようです。このAVは、Audio Visualではない方ですね。

 6月15日に成立し、22日に公布されています(法律第78号)。

 法律の内容としては、AV出演被害の防止と被害者の救済のため、出演契約の締結に関する特則(4〜6条。AV契約書等の交付義務、AV契約の説明義務、罰則での担保等。)や、契約の取消し、解除等に関する特則(10〜16条)、AVの制作公表に関する差止請求権(15条)等が定められているほか、映像がネット上に拡散することを防止するためのプロバイダ責任制限法の特例(16条)が定められています。

 デジタル化に関してですが、そもそもこの法律でのAVの定義規定が、「電磁的記録又はこれに係る記録媒体」とされていて、デジタル化の進展や情報通信技術の活用が前提となっています。

 

(定義)
第2条 (略)

2 この法律において「性行為映像制作物」とは、性行為に係る人の姿態を撮影した映像並びにこれに関連する映像及び音声によって構成され、社会通念上一体の内容を有するものとして制作された電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)又はこれに係る記録媒体であって、その全体として専ら性欲を興奮させ又は刺激するものをいう。

3〜8 (略)

 

 また、先にも書きましたが、第16条では、AVの出演者からプロバイダ等に情報削除の申出があった場合の、削除同意照会期間について、通常の「7日」から「2日」に短縮する特例が設けられています。

 

第十六条 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第三条第二項及び第四条(第一号に係る部分に限る。)並びに私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律第四条の場合のほか、特定電気通信役務提供者(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第二条第三号の特定電気通信役務提供者をいう。第一号及び第二号において同じ。)は、特定電気通信(同法第二条第一号の特定電気通信をいう。第一号において同じ。)による情報の送信を防止する措置を講じた場合において、当該措置により送信を防止された情報の発信者(同法第二条第四号の発信者をいう。第二号及び第三号において同じ。)に生じた損害については、当該措置が当該情報の不特定の者に対する送信を防止するために必要な限度において行われたものである場合であって、次の各号のいずれにも該当するときは、賠償の責めに任じない

 一 特定電気通信による情報であって性行為映像制作物に係るものの流通によって自己の権利を侵害されたとする者(当該性行為映像制作物の出演者に限る。)から、当該権利を侵害したとする情報(以下この号及び次号において「性行為映像制作物侵害情報」という。)、当該権利が侵害された旨、当該権利が侵害されたとする理由及び当該性行為映像制作物侵害情報が性行為映像制作物に係るものである旨(同号において「性行為映像制作物侵害情報等」という。)を示して当該特定電気通信役務提供者に対し性行為映像制作物侵害情報の送信を防止する措置(同号及び第三号において「性行為映像制作物侵害情報送信防止措置」という。)を講ずるよう申出があったとき。

 二 当該特定電気通信役務提供者が、当該性行為映像制作物侵害情報の発信者に対し当該性行為映像制作物侵害情報等を示して当該性行為映像制作物侵害情報送信防止措置を講ずることに同意するかどうかを照会したとき。

 三 当該発信者が当該照会を受けた日から二日を経過しても当該発信者から当該性行為映像制作物侵害情報送信防止措置を講ずることに同意しない旨の申出がなかったとき

 

 この条文も長いですね。

 インターネット上の情報の拡散に関する被害の防止という観点では、侮辱罪の法定刑の引上げに関する刑法改正もありました。こちらは、法定刑の引上げが改正内容でしたので、ご紹介はしませんでしたが、背景にはインターネット上の誹謗中傷が社会問題化したことがありました。大事な話だと思います。

www.moj.go.jp

 

(在外教育施設における教育の振興に関する法律)

 在外教育施設における教育の振興に関する法律は、6月13日に成立し、17日に公布されました(法律第73号)。

 在外教育施設というのは、海外にある日本人学校のことです。この法律では、在外教育施設における教育の振興に関して、基本理念を定めるとともに、基本方針の策定や講ずるべき基本的施策について定めています。具体的な規制や罰則はありませんし、いわゆる理念法といっていいと思います。

 ということで、基本的にデジタル化とは縁遠そうな法律なのですが、第3章の基本的施策の中に、以下のような条文がありましたので備忘的に書き留めておきます。

 

(在外教育施設における教育の内容及び方法の充実強化)

第十条 国は、在外教育施設における教育の内容及び方法の充実強化が図られるよう、参考となる資料等の情報の提供、在外教育施設における情報通信技術の活用の促進その他の必要な施策を講ずるものとする。

 

 コロナ禍でオンライン授業の技術等も進展しましたし、海外での子どもたちへの教育充実を図る上でも、情報通信技術の活用の促進はますます重要になると思います。国境を超えて日本から授業することも、今なら普通にできそうですしね。

 

 今回は、2つしか紹介をしていませんが、それなりの長さになったのと、ちょうど衆法がこれで一区切りなので、今回はここまでとしたいと思います。

 

(参考)

www.shugiin.go.jp