デジタル化に関する法制度の備忘録

行政手続等のオンライン化やキャッシュレス化など、デジタル化に関する法制度について書いてます。

原本のデジタル化

(原本とは?)

 「原本」について、法律で定義が置かれているものがなく、法令用語辞典で調べたことがあるのですが、謄本、正本及び抄本に対応する用語であり、これらの基になる文書とされていました。

 基になる文書というのは分かるのですが、今度は、謄本、正本などが出てきました。これらは、どう違うのでしょうか。

 個人的には、原本と正本が、なんとなく本物というイメージでだったのですが、大きく分けると「原本」と「謄本」とに分類されるようです。

 「原本」は、作成者が最初に作成した大もとの文書で、原本と同一の内容を完全に写し取った文書が「謄本」となります。この「謄本」のうち、権限のある者によって作成され、法令によって原本と同一の効力が与えられているものが「正本」です。

 なお、「謄本」には、「正本」、「認証のある謄本」及び「写し(認証のない謄本)」が含まれるとのことです。特許庁審判部の作成した「(参考)文書の原本・写しについて」と題する資料に、これらの関係が図示してありましたので、勝手ながら、参考に抜粋させていただきます。

原本・謄本等の関係(特許庁審判部の資料より抜粋)

 

 なお、原本は、オリジナルの資料なので、一点のみというイメージがありますが、2つ以上存在する場合もあります。契約書などは、通常2通作成して、双方が保管しますし、官報の場合は、印刷物である官報が原本ということなので、大量の原本があることになります。

 

(原本のデジタル化)

 さて、デジタル手続法第9条では、書面の作成のデジタル化について定めています。このように、書面に代えて電磁的記録を作成した場合、電磁的記録が原本となります。第2項では、電磁的記録による作成が、書面により行われたものとみなすとの規定も置かれていますし、原本のデジタル化への対応が図られています。

 

(電磁的記録による作成等)
第九条 作成等のうち当該作成等に関する他の法令の規定において書面等により行うことが規定されているものについては、当該法令の規定にかかわらず、主務省令で定めるところにより、当該書面等に係る電磁的記録により行うことができる
2 前項の電磁的記録により行われた作成等については、当該作成等に関する他の法令の規定により書面等により行われたものとみなして、当該法令その他の当該作成等に関する法令の規定を適用する。
3 作成等のうち当該作成等に関する他の法令の規定において署名等をすることが規定されているものを第一項の電磁的記録により行う場合には、当該署名等については、当該法令の規定にかかわらず、氏名又は名称を明らかにする措置であって主務省令で定めるものをもって代えることができる。

 

 個人的には、「原本」という言葉のイメージとして、有体物を念頭に置いてしまい、電磁的記録が原本というのが、何となく違和感があったのですが、「行政文書の電子的管理についての基本的な方針」(平成31年3月25日内閣総理大臣決定)では、電磁媒体を正本・原本とすることとされており、こういう自分勝手なイメージは改めなければいけないなと反省していました。(原文は以下の通りです。)

 

(1) 電子媒体の正本・原本化
 閣僚会議決定を踏まえ、今後作成・取得する行政文書については、行政文書の所在把握、履歴管理や探索を容易にするとともに、管理業務の効率化に寄与する観点から、電子媒体を正本・原本として体系的に管理することを基本とし、そのための枠組みを構築することとする。

 

 今回の民事訴訟法の改正で、判決書の電子化がされることとなりましたが、これも、原本がデジタル化される例となります。

 

(契約書等のデジタル化)

 ここまで、行政文書等の原本のデジタル化について見てきましたが、民民間においても、電子契約の契約書などで、原本がデジタル化されています

 書面での契約の場合は、原本である契約書に署名や押印を行いますが、電子契約の場合は、署名や押印の代わりに電子署名を行うことになります。電子署名が行われた電子契約書は、電子署名法第3条により、真正に成立したものと推定されますが、詳しくは、デジタル庁のHP等をご参照ください。(参考欄にリンクを貼っておきます。)

 また、民間事業者等を対象とするe文書法の第4条でも、デジタル手続法と同様に、書面作成のデジタル化に関する規定が置かれています

 

(電磁的記録による作成)
第四条 民間事業者等は、作成のうち当該作成に関する他の法令の規定により書面により行わなければならないとされているもの(当該作成に係る書面又はその原本、謄本、抄本若しくは写しが法令の規定により保存をしなければならないとされているものであって、主務省令で定めるものに限る。)については、当該他の法令の規定にかかわらず、主務省令で定めるところにより、書面の作成に代えて当該書面に係る電磁的記録の作成を行うことができる
2 前項の規定により行われた作成については、当該作成を書面により行わなければならないとした作成に関する法令の規定に規定する書面により行われたものとみなして、当該作成に関する法令の規定を適用する。
3 第一項の場合において、民間事業者等は、当該作成に関する他の法令の規定により署名等をしなければならないとされているものについては、当該法令の規定にかかわらず、氏名又は名称を明らかにする措置であって主務省令で定めるものをもって当該署名等に代えることができる

 

 ちなみに、青字の部分は、電子署名を想定した規定になっています。

 

 少し話がずれてしまった部分もあったかもしれませんが、いずれにしても、行政文書等でも、民民間の契約等でも、原本のデジタル化に関する対応が進められていることが分かりました。話が前回に戻りますが、原本と位置付けられる電子官報の実現にも期待したいと思います。

 

(参考)

www.digital.go.jp

ura49.hateblo.jp

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