デジタル化に関する法制度の備忘録

行政手続等のオンライン化やキャッシュレス化など、デジタル化に関する法制度について書いてます。

官民データ活用推進基本法(2016年)について(1)背景、経緯等

(行政手続等関連データの棚卸)

 行政手続等の棚卸調査と一体的に実施されている「行政保有データの棚卸」については、官民データ活用推進基本法第11条の規定を踏まえて、取組が進められていると考えられます。

 官民データ活用基本法は、議員立法として提案・成立しているため、内閣提出の法律案と比べて、提出までの経緯等が見えにくいものとなっています。議員立法についても、党内の会合や超党派の議連などでの検討がなされ、情報発信などもなされていると思うのですが、内閣提出法案が、公開されている審議会等での検討や、閣議決定される行政文書などで、検討の背景や経緯が明らかにされているのと比べると、なかなか部外者からは、検討の様子が分かるような情報が探しにくいという趣旨で、今回、情報把握が不十分な点はご容赦ください。。

 いずれにしても、「官民データ活用推進基本法」について、少し情報をまとめておきたいと思います。

 

(制定の経緯)

 官民データ活用推進基本法は、2006(平成28)年の192回国会で成立しています。

 まず、衆議院では、11月25日の内閣委員会で、自由民主党無所属の会民進党・無所属クラブ、公明党及び日本維新の会の四党共同提案により、配布された「官民データ活用推進基本法案の起草案」を成案とし、本委員会提出の法律案として決定すべしとの動議が提出され、これが賛成多数で可決されました。その後、29日の衆議院本会議で、賛成多数で可決されています。次に、参議院では、12月6日の内閣委員会で質疑が行われ、反対の二人の議員からの質疑を経て、賛成多数で可決されました。その後、7日の参議院本会で、賛成多数で可決し、法律が成立、14日に交付・施行されました。(具体的な質疑内容等は、議事録「第192回国会 衆議院 内閣委員会 第7号 平成28年11月25日」「第192回国会 参議院 内閣委員会 第8号 平成28年12月6日」をご参照ください。)

 

 背景としては、自民党の「官民データ利活用促進基本法案検討に関するPT」などでの検討等があり、議員立法として提案されたようです。また以下の記事によれば、検討の過程では、内閣提出法案としての検討が行われて、断念された経緯などもあったようです。こうしたことは、通常、公式には表に出てきませんので、ご関心のある方は、記事を参照いただければと思います。

agora-web.jp

 

 いずれにしても、2000年に、IT基本法(⾼度情報通信ネットワーク社会形成基本法)が成立した後に、ITの進展により⽣じた社会経済構造の変化に対応するために、新たな法律として制定されたものといえると思います。

 IT基本法以後のITの進展による変化への対応という意味では、2014年に成立した「サイバーセキュリティ基本法」も、同様の背景を持つものです。サイバーセキュリティ基本法議員立法として提案され、成立しています。

 

(法律の内容)

 官民データ活用推進基本法の構成は以下の通りとなっています。

目次
第一章 総則(第一条―第七条)
第二章 官民データ活用推進基本計画等(第八条・第九条)
第三章 基本的施策(第十条―第十九条)

 

 総則では、基本理念などが置かれていますが、特徴的なこととしては、AI(人工知能)やIoT(インターネット・オブ・シングス)など新技術に関する法律上の定義が新たに置かれていることです。

 第2章では、「官民データ活用」を推進するための計画の策定を、政府、都道府県、市町村に求める規定が置かれています。

 第3章は、基本的な施策に関する規定ですが、「官民データ活用」に関連する、以下のような多様な規定が置かれています。

・⾏政⼿続に係るオンライン利⽤の原則化(10条)
・国・地⽅公共団体・事業者による⾃ら保有する官⺠データの活⽤の推進(11条)
・データ流通における個⼈の関与の仕組みの構築(12条)
・ 情報システムに係る規格の整備、互換性の確保(15条)
マイナンバーカードの利⽤(13条)
・研究開発の推進等(16条)

 

 一例として挙げると、第10条は、以下の通りとなっています。

(手続における情報通信技術の利用等)
第十条 国は、行政機関等(情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律(平成十四年法律第百五十一号)第三条第二号の行政機関等をいう。以下この項において同じ。)に係る申請、届出、処分の通知その他の手続に関し、電子情報処理組織(行政機関等の使用に係る電子計算機と当該行政機関等の手続の相手方の使用に係る電子計算機とを電気通信回線で接続した電子情報処理組織をいう。)を使用する方法その他の情報通信技術を利用する方法により行うことを原則とするよう、必要な措置を講ずるものとする。

 

 いかがでしょうか。この後、2019年に、行政手続のオンライン化を原則とする「デジタル手続法」が成立しているわけですが、そこにつながる、オンライン利用の原則が、この法律の中で、すでに盛り込まれていたということがわかりますね。

 

 少し長くなりましたので、今回はここまでとして、次回は、官民データ活用推進基本法の内容を、具体の条文とともに見ていきたいと思います。

 

(参考)

kokkai.ndl.go.jp

ura49.hateblo.jp