(第213回国会の状況)
6月の第3週(6月19日まで)の、内閣提出法案の成立状況ですが、成立は61本となっていて、先週の時点から9本が新たに成立したことになります。今国会は、明日23日が会期末で、今週で事実上の閉会となりますので、内閣提出の62法案のうち、61本が成立したことになります。
新たに成立したものは、以下の9本です。
27 食料供給困難事態対策法 農林水産省
28 食料の安定供給のための農地の確保及びその有効な利用を図るための農業振興地域の整備に関する法律等の一部を改正する法律 農林水産省
31 地方自治法の一部を改正する法律 総務省
36 消費生活用製品安全法等の一部を改正する法律 経済産業省
48 農業の生産性の向上のためのスマート農業技術の活用の促進に関する法律 農林水産省
49 漁業法及び特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律の一部を改正する法律 農林水産省
58 出入国管理及び難民認定法等の一部を改正する法律 法務省
59 出入国管理及び難民認定法及び外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律の一部を改正する法律 法務省
61 学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律 こども家庭庁
デジタル化に関係するものとしては、下線の4つの法律が該当するかと思います。以下で、簡単に見ておきたいと思います。
(地方自治法等の改正)
地方自治法等の改正については、感染症の大流行や大規模災害などが発生した場合に国が自治体に必要な指示ができる特例が設けられたことが、ニュースなどで数多く取り上げられています。一方で、その他の改正内容は、あまり報道等はされていない気がしますが、提出理由は以下のようになっていて、「公金の収納事務のデジタル化及び情報システムの適正な利用等のための規定の整備を行う」という内容も含まれています。
地方公共団体の運営の合理化及び適正化並びに持続可能な地域社会の形成を図るとともに、大規模な災害、感染症のまん延その他その及ぼす被害の程度においてこれらに類する国民の安全に重大な影響を及ぼす事態における国と地方公共団体との関係を明確化するため、地方制度調査会の答申にのっとり、公金の収納事務のデジタル化及び情報システムの適正な利用等のための規定の整備を行うとともに、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態における国と地方公共団体との関係等の特例の創設、地域の多様な主体の連携及び協働を推進するための制度の創設等の措置を講ずるほか、所要の規定の整備を行う必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。
公金の収納事務のデジタル化
公金の収納事務のデジタル化については、(地方税以外の)公金の収納にeLTAX(地方税の手続のためのシステム)を活用てきるようにするための改正です。地方税以外の公金の収納については、現行でも、指定納付受託者制度(地方自治法231条の2の2)を活用して、クレジットカードやスマホの決済アプリの利用はできますが、全国共通の仕組みとして、統一QRコードなどを使ってeLTAXを活用した収納を行うようなことはできませんでした。
一方、地方税については、2023年4月から、全国共通の仕組みとして、地方税統一QRコードを使ってeLTAXを活用した収納が可能となっています。
地方税以外の公金の収納についても、このような仕組みの導入を求める声が従来からあり、今回の改正の背景となっています。ちなみに、地方税以外の公金と言われても、当方はイメージがなかなか沸かなかったのですが、道路専用料や行政財産使用料などがあるようです。。
この関係の改正後の条文は、以下の通りとなっています。
(特定歳入等の収納)
第二百四十三条の二の七 地方税共同機構(以下この条において「機構」という。)は、歳入等(地方税(当該地方税に係る地方税法第一条第一項第十四号に規定する督促手数料、延滞金、過少申告加算金、不申告加算金、重加算金及び滞納処分費を含む。)その他の政令で定めるものを除く。次項及び第六項において同じ。)の収納に関する事務の合理化及び納入義務者の利便の向上に寄与するため、次項に規定する特定収納事
務に関する業務を行う。
2 普通地方公共団体の長は、歳入等のうち、納入義務者が総務省令で定める方法により納付するものであつて、次の各号のいずれにも該当するものとして当該普通地方公共団体の長が定めるもの(以下この条において「特定歳入等」という。)の収納に関する事務(次項及び第四項において「特定収納事務」という。)については、政令で定めるところにより、機構に行わせるものとする。
(以下、略)
地方税共同機構は、eLTAXの運営主体ですが、第1項では、機構が地方税以外の公金(「歳入等」)に関する事務を行うことが、第2項では、地方自治体がeLTAXを利用して行う納付(「総務省令で定める方法により納付するもの」)について、地方税共同機構に行わせるということが定められています。
ちなみに、地方税については、地方税法に以下の規定が置かれています。今回の地方自治法の規定ぶりと似ていますね。(赤文字の部分を比べてもらうと、同様の規定ぶりとわかりやすいかと思います。。)
◯地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)
(特定徴収金の収納の特例)
第七百四十七条の六 地方団体は、特定徴収金の収納の事務については、政令で定めるところにより、機構に行わせるものとする。
2 前項の「特定徴収金」とは、地方税に係る地方団体の徴収金のうち、納税義務者又は特別徴収義務者が総務省令で定める方法により納付し、又は納入するものをいう。
3 (略)
情報システムの適正な利用
情報システムの適正に利用については、概要資料に以下のように記載されています。
① 情報システムの適正な利用等
・ 地方公共団体は、事務の種類・内容に応じ、情報システムを有効に利用するとともに、他の地方公共団体又は国と協力し、その利用の最適化を図るよう努めることとする。
・ 地方公共団体は、サイバーセキュリティの確保の方針を定め、必要な措置を講じることとする。総務大臣は、当該方針の策定等について指針を示すこととする。
いずれも非常に重要な内容で、すでに実態としては各自治体で取り組まれていることと思いますが、改めて法律上にも定められたことの意義は大きいのだろうと思います。(特に、SaaSなどのクラウド利用などが進む中で、他の自治体や国と協力して利用の最適化を図るというのは、効率的なシステム整備・運営のためにも、とても重要なことと思います。)
今回新設された条文は、以下のとおりです。
(情報システムの利用に係る基本原則)
第二百四十四条の五 普通地方公共団体は、その事務を処理するに当たつて、事務の種類及び内容に応じ、第二条第十四項及び第十五項の規定の趣旨を達成するため必要があると認めるときは、情報システムを有効に利用するとともに、他の普通地方公共団体又は国と協力して当該事務の処理に係る情報システムの利用の最適化を図るよう努めなければならない。
2 普通地方公共団体は、その事務の処理に係る情報システムの利用に当たつて、サイバーセキュリティ(サイバーセキュリティ基本法(平成二十六年法律第百四号)第二条に規定するサイバーセキュリティをいう。次条第一項において同じ。)の確保、個人情報の保護その他の当該情報システムの適正な利用を図るために必要な措置を講じなければならない。
(サイバーセキュリティを確保するための方針等)
第二百四十四条の六 普通地方公共団体の議会及び長その他の執行機関は、それぞれその管理する情報システムの利用に当たつてのサイバーセキュリティを確保するための方針を定め、及びこれに基づき必要な措置を講じなければならない。
2 普通地方公共団体の議会及び長その他の執行機関は、前項の方針を定め、又はこれを変更したときは、遅滞なく、これを公表しなければならない。
3 総務大臣は、普通地方公共団体に対し、第一項の方針(政令で定める執行機関が定めるものを除く。)の策定又は変更について、指針を示すとともに、必要な助言を行うものとする。
4 総務大臣は、前項の指針を定め、又は変更しようとするときは、国の関係行政機関の長に協議しなければならない。
少し長くなってしまいましたので、今回はここまでにして、残りの3本の法律は、次回に簡単に見てみることにします。
(参考)