デジタル化に関する法制度の備忘録

行政手続等のオンライン化やキャッシュレス化など、デジタル化に関する法制度について書いてます。

第213回国会のデジタル関係法(17)消費生活用製品安全法、プロバイダ責任制限法の改正

(第213回国会の状況)

 第213回国会は、先週で閉会となりましたが、内閣提出の法案は、62本のうち、61本が成立しました。

 前回の記事で書きましたが、最後の1周間で成立した法律のうち、デジタル関係と思われるものは、以下の4本です。

31 地方自治法の一部を改正する法律 総務省
36 消費生活用製品安全法等の一部を改正する法律 経済産業省
48 農業の生産性の向上のためのスマート農業技術の活用の促進に関する法律 農林水産省
58 出入国管理及び難民認定法等の一部を改正する法律 法務省

 先週は、地方自治法の改正内容までしか見れませんでしたので、今回は、その続きで、消費生活用製品安全法等について、見ていきたいと思います。

 

(消費生活用製品安全法等の改正)

 消費生活用製品安全法(略称で消安法というらしいです)等の改正法案の提出理由は、以下の通りとなっています。

消費生活用製品等による一般消費者の生命又は身体に対する危害等の防止を図るため、規制の対象に係る輸入の定義を見直すとともに、主務大臣による取引デジタルプラットフォームの利用停止要請の創設等の措置を講ずるほか、主として子供の生活の用に供される製品の安全性を確保するための措置を講ずる必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。

 上記の赤文字の通り、プラットフォーム事業者への「利用停止要請」に関する制度が創設されています。当方には少しわかりにくかったのですが、海外の事業者がオンラインモールで危険な製品を販売していて、リコール等の対応も期待できそうにない、といった場合に、オンラインモールを運営しているプラットフォーム事業者に対して、海外事業者がオンラインモールを利用することを停止(出品削除など)するよう、「危害の防止」の要請を国(主務大臣)から行うことができる、という制度です。

 すごく大雑把に書いてしまったので、経産省HPの法案の説明の表現を借りると、より正確には、海外事業者がオンラインモールを始めとする取引デジタルプラットフォームを利用するなどして国内消費者に直接製品を販売する場合に、製品の安全性に(法的)責任を有するとしている国内の製造・輸入事業者が存在しないといった課題に対処するため、取引デジタルプラットフォームにおいて提供される消費生活用製品等について、国内消費者に危険が及ぶおそれがあると認められ、かつ、その製品の出品者によってリコール等の必要な措置が講じられることが期待できないときは、取引デジタルプラットフォームを提供する事業者に対し、当該製品の出品削除を要請できるなどの措置を講じる、という制度になります。

 

 新設された具体の条文は、以下のようなものです。

 (危害防止要請)
第三十二条の三 主務大臣は、第三十二条各号に掲げる事由により取引デジタルプラットフォームを利用する一般消費者の生命又は身体について危害が発生するおそれがあると認める場合において、当該各号に規定する者が特定できないこと、その所在が明らかでないことその他の事由により当該各号に規定する者によつて当該危害の発生及び拡大を防止するために必要な措置がとられることを期待することができず、かつ、当該危害の発生及び拡大を防止するため特に必要があると認めるときは、当該取引デジタルプラットフォームを提供する取引デジタルプラットフォーム提供者に対し、当該各号に規定する者による当該特定製品の販売に係る当該取引デジタルプラットフォームの利用の停止その他の必要な措置をとるべきことを要請することができる

 一応、重要そうな部分を赤にしてみましたが、、長い一文ですよね。。

 なお、説明を省略してしまいましたが、本来の責任は、危険な商品を輸入・販売する事業者にあるわけで、プラットフォーム事業者の責任は二次的なものです。ですので、いきなりプラットフォーム事業者に対して要請を行うわけではなく、まずは、海外の事業者等への「危害防止命令」を発するための仕組みなども合わせて整備されています。(第32条など)

 

取引デジタルプラットフォーム

 上記の通り、今回の消安法の改正では、プラットフォーム事業者に対する規制が設けられているわけですが、規制の対象として、「取引デジタルプラットフォーム」「取引デジタルプラットフォーム提供者」に関する定義が置かれています。

 具体的には、「定義」を定めている第2条に以下の8項、9項が追加されました。

 (定義)
第二条 (略)
8 この法律において「取引デジタルプラットフォーム」とは、特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律(令和二年法律第三十八号)第二条第一項に規定するデジタルプラットフォームのうち、当該デジタルプラットフォームにより提供される場が次の各号のいずれかの機能を有するものをいう。
 一 当該デジタルプラットフォームを利用する一般消費者が、その使用に係る電子計算機の映像面に表示される手続に従つて当該電子計算機を用いて送信することによつて、消費生活用製品の製造、輸入又は販売の事業を行う者(自らが提供する当該デジタルプラットフォームを利用して消費生活用製品の販売を行う場合におけるものを除く。次号において同じ。)に対し、消費生活用製品の通信販売(特定商取引に関する法律(昭和五十一年法律第五十七号)第二条第二項に規定する通信販売をいう。以下同じ。)に係る売買契約の申込みの意思表示を行うことができる機能
 二 当該デジタルプラットフォームを利用する一般消費者が、その使用に係る電子計算機の映像面に表示される手続に従つて当該電子計算機を用いて送信することによつて、競りその他の政令で定める方法により消費生活用製品の製造、輸入又は販売の事業を行う者の消費生活用製品の通信販売に係る売買契約の相手方となるべき一般消費者を決定する手続に参加することができる機能(前号に該当するものを除く。)
9 この法律において「取引デジタルプラットフォーム提供者」とは、事業として、取引デジタルプラットフォームを単独で又は共同して提供する者をいう。

 

 上記の通り、規制の対象となる「取引デジタルプラットフォーム」については、別の法律(「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」)で定められているデジタルプラットフォームのうち、(オンラインモールを運営しているなどの)一定の要件を満たすもの、という形で定められていいます。

ura49.hateblo.jp

 

プロバイダ責任制限法の改正)

 今回取り上げた消安法等の改正のほかにも、今国会では、所得税法の改正(プラットフォーム課税の導入)、プロバイダ責任制限法の改正(大規模プラットフォーム事業者への規制の追加)といった、プラットフォーム事業者に関する法改正がありました。そういえば、プロバイダ責任制限法は、名称も、情報流通プラットフォーム対処法に変わったのでした。。

ura49.hateblo.jp

 

大規模特定電気通信役務提供者

 プロバイダ責任制限法改め、情報流通プラットフォーム対処法では、新たに規制の対象となる大規模プラットフォーム事業者について、「大規模特定電気通信役務提供者」として定義されています。

 「大規模特定電気通信役務提供者」に関しては、大規模特定電気通信役務を提供する者として、総務大臣に指定された事業者という定義となっています。具体的には、「定義」を定める第2条に以下の第14号が追加されています。

 (定義)
第二条 (略)
 十四 大規模特定電気通信役務提供者 第二十条第一項の規定により指定された特定電気通信役務提供者をいう。

 

 大規模プラットフォーム事業者(「大規模特定電気通信役務提供者」)に対しては、誹謗中傷などの送信防止措置について、実施手続の迅速化や実施状況の透明化を図るための義務が課されることとなります。これらは、インターネット上の誹謗中傷などは、大規模プラットフォームを中心に行われているため、大規模プラットフォームに迅速かつ十分な対応を義務付けることが効果的、という考え方に基づくものとなっています。

 その他の改正内容などは、詳しく説明しているサイトがすでにいくつもあるようですので、そちらにお譲りしようと思います。(事業者の皆さんに直接影響が大きいですし、ITパスポートなどの資格試験などでも、勉強しないといけない内容なので、多くのサイトで取り上げられているのだろうな・・と思っておりました。。)

 

 少し長くなってしまいましたので、今回はここまでにします。

 

 全く余談ですが、法律の略称は、e-GOV法令検索の左側にある、「詳細」の部分で、「略称法令名」として記載されている場合があります。e-GOVは政府の運営するHPですので、いわば公式の略称と言っていいと思うのですが、「プロバイダ責任制限法」というのもそうした公式の略称の一つです。名称が「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」に変わった後は、どのような略称が登録されるのか(情報流通プラットフォーム対処法でしょうか・・)も、今後注目しておきたいと思います。

 

(参考)

www.meti.go.jp

www.soumu.go.jp

ura49.hateblo.jp