(デジタル関係の法案の状況)
第221回国会(特別会)(令和8年2月18日~7月25日)は、先週閉会しまして、内閣提出の64法案は、全て成立しました。
少し時間が空きましたが、デジタルに関係のありそうということでピックアップしていた以下の法案のうち(備忘のためすでに扱ったものは取り消し線を引いてます。)、今回は、個人情報保護法の改正について見てみます。
金融機能の強化のための特別措置に関する法律等の一部を改正する法律案 金融庁
経済社会情勢の変化を踏まえた企業の事業活動の持続的な発展を図るための産業競争力強化法等の一部を改正する法律案 経済産業省
出入国管理及び難民認定法及び出入国管理及び難民認定法第二条第五号ロの旅券を所持する外国人の上陸申請の特例に関する法律の一部を改正する法律案 法務省
産業技術力強化法の一部を改正する法律案 経済産業省
携帯音声通信事業者による契約者等の本人確認等及び携帯音声通信役務の不正な利用の防止に関する法律の一部を改正する法律案 総務省
地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律案 内閣府
情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律及び情報処理の促進に関する法律の一部を改正する法律案 内閣官房
個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律案 個人情報保護委員会
学校教育法等の一部を改正する法律案 文部科学省
(個人情報保護法の改正)
法案の提出理由
個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律案の提出理由は以下のとおりです。
個人情報の有用性に配慮しつつ、その一層の保護を図るため、身体の一部の特徴に係る情報が含まれる個人情報等について違法な取扱い等がなくとも本人による利用停止等の請求を可能とするとともに、個人情報の違法な取扱い等によって財産上の利益を得た場合に個人情報保護委員会が課徴金納付を命ずる制度を設けるほか、統計等の作成を行う第三者に個人情報を提供する場合等について本人の同意を不要とする等の措置を講ずる必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。
下線の部分が、「統計作成等特例」の創設と呼ばれている部分でして、AI開発など公益性・社会的有用性の高いデータ利用について、本人同意規制を緩和するような内容の改正となっています。
(統計作成等特例)
改正後の条文
今回の改正で新たに設けられた「統計作成等」の定義について、まず見てみます。
(定義)
第二条
13 この法律において「統計作成等」とは、統計の作成その他の大量の情報から当該情報を構成する要素に係る情報を抽出して分類、比較その他の解析を行うことにより、当該大量の情報の傾向又は性質に係る情報(個人に関する情報であるものを除く。)を作成する行為のうち、個人の権利利益を害するおそれが少ないものとして個人情報保護委員会規則で定めるものをいう。
改正後の第2条第13項について、大雑把に言えば以下のようになっています。
「統計作成等」とは、大量の情報から一定の構成要素を抽出して、比較、その他の解析を行い、(個人に関する情報ではない)「傾向」や「性質」に関する情報を作成する行為であり、なおかつ、個人の権利利益を害するおそれが少ないものとして個人情報保護委員会規則で定めるもの、のことをいう。
条文上「統計の作成その他の・・・」ということで、「当家の作成」が例示されていますが、このほかには、例えば、AIモデルの学習や、機械学習用データ解析などが、この定義に含まれることが想定されています。
条文の後半には、「個人の権利利益を害するおそれが少ないものとして個人情報保護委員会規則で定めるもの」との文言がありますが、どのようなものが個人の権利利益を害する恐れが少ないとされるのかは、今後、個人情報保護委員会が定める委員会規則やガイドラインで示されることとなります。個人情報保護委員会の定めるこれらのルールが、「統計作成等」の具体的な範囲や運用を定めることになりますので、実務上これらを見ておくことがとても重要になりますね。
統計特例が設けられた背景と特例の内容
このような統計特例が設けられた背景として、そもそも個人情報保護法では、要配慮個人情報を取得したり、個人情報を含むデータを第三者へ提供するには原則として本人同意が必要とされている、という現状があります。しかしながら、AI開発などで、大量の実データが必要になる場合などに、何百万人分もの同意を取得することは現実的ではなく、こうしたことが課題となっていました。
そこで今回、そうしたAI開発などの場合を含め、統計作成等のみを目的とする場合について、一定条件の下で本人同意を不要とする制度が創設されることとなりました。
統計特例では、公開されている要配慮個人情報の取得や、個人情報等に当たるデータの第三者提供について、本人同意を不要とする特例が設けられています。これらは、現行の第20条第2項(要配慮個人情報の取得)や第27条第1項(個人情報の第三者提供)、第31条第1項(個人関連情報の第三者提供)に対する特例となります。
なお、「個人情報」は氏名や住所など特定の個人を識別できる情報で、「個人関連情報」はCookieや閲覧履歴など単体では個人を識別できない情報のことです。
新設された具体的な条文は以下のとおりです。
(個人情報に係る統計作成等の特例)
第三十条の二 個人情報取扱事業者は、統計作成等を行う目的(略)又は第五項本文の規定による提供を行う目的で現に公開されている要配慮個人情報を取り扱う必要がある場合(略)であって、インターネットの利用その他の個人情報保護委員会規則で定める方法により当該個人情報取扱事業者の氏名又は名称、取得した要配慮個人情報を用いて行おうとする統計作成等の内容又は同項本文の規定による提供を行う目的で当該要配慮個人情報を取り扱う旨その他個人情報保護委員会規則で定める事項を公表しているときは、第二十条第二項の規定にかかわらず、当該現に公開されている要配慮個人情報を本人の同意を得ないで取得することができる。5 個人情報取扱事業者は、第三者・・・・が個人情報を統計作成等目的で取り扱う必要がある場合であって、次の各号のいずれにも該当するときは、第十八条及び第二十七条第一項の規定にかかわらず、当該個人情報を本人の同意を得ないで当該第三者に提供することができる。ただし、当該個人情報が他の個人情報取扱事業者又は個人関連情報取扱事業者からこの項本文又は第三十一条の三第一項本文の規定により提供されたもの(その全部又は一部を複製し、又は加工したものを含む。)である場合は、この限りでない。
一・二 (略)
(個人関連情報の第三者提供に係る統計作成等の特例)
第三十一条の三 個人関連情報取扱事業者は、第三者が個人関連情報を統計作成等目的で取り扱う必要がある場合(略)であって、次の各号のいずれにも該当するときは、第三十一条第一項(第一号に係る部分に限る。)の規定にかかわらず、同項第一号に掲げる事項について確認することをしないで当該個人関連情報を当該第三者に提供することができる。ただし、当該個人関連情報が個人情報取扱事業者又は他の個人関連情報取扱事業者から第三十条の二第五項本文又はこの項本文の規定により提供されたもの(その全部又は一部を複製し、又は加工したものを含む。)である場合は、この限りでない。
一・二 (略)
念のためまでですが、以下のような対応関係となっています。
・公開されている要配慮個人情報の取得の特例 第30条の2第1項
・個人情報の第三者提供の特例 第30条の2第5項
・個人関連情報の第三者提供の特例 第31条の3第1項
(統計作成等の特例に関する義務)
誤解があるといけないのですが、今回の統計等特例は「AI開発なら自由に使ってよい」という制度ではもちろんありません。
改正法では、利用目的は統計作成等に限定され、目的外利用は禁止、再提供は禁止されています。また、データを受け取る事業者では安全管理措置が必要となり、個人情報保護委員会が監督を行うこととなります。また、今後作成される個人情報保護委員会の規則では、AI開発等に不要な氏名や住所等は提供先で速やかに削除することを求めることなどが想定されています。
個人情報保護法上では、「統計作成等の特例に係る義務」について、新設された第72条の3で規定されています。
今回の個人情報保護法の改正については、報道等も多くなされていますし、とりあえず以上にしたいと思います。今回の「統計作成等特例」制度により、AI開発など公益性・社会的有用性の高いデータ利用が進むことを期待したいと思います。
(個人的に分かりやすいと思った記事へのリンクを貼っておきます。)
適正なデータ利活用で豊かな日本へ 個人情報QアンドA | お知らせ | ニュース | 自由民主党
(参考)