(刑事手続デジタル化法案の提出理由)
第217回通常国会(1月24日〜6月22日)で成立したデジタル関係の法律をみていく流れの続きですが、今回は、刑事手続デジタル化法(情報通信技術の進展等に対応するための刑事訴訟法等の一部を改正する法律)について見てみます。
前回までは、新法やデジタル人材育成に関するものを見てきましたが、今回は手続きのデジタル化に関するものです。手続きのデジタル化は、デジタル関係法の中で最も典型的なものと思っているのですが、、法務省の法律については、どうしても扱うことに腰が重くなってしまいます。。というのも、他の役所と違って、パワーポイントなどの概要紙がHPに掲載されていないので、要綱を見て概要を理解しないといけないのです。。。
そして、この刑事手続デジタル化法案の場合、法案の要綱が38ページ(+修正案の要綱1ページ)で、あたりまですが、すべて文字なので、とても読み切る自信がありません。ということで、要綱で理解するのはあきらめることにして、まずは、法案の提出理由を見てみます。以下のとおりです。
近年における情報通信技術の進展及び普及の状況等に鑑み、刑事手続等に関与する国民の負担軽減並びに手続の円滑化及び迅速化に資するため、手続において取り扱う書類について電磁的記録としての作成等及び電子情報処理組織を使用する方法等による発受並びに対面で行われる手続について映像と音声の送受信により行うことに関する規定を整備するとともに、電磁的記録をもって作成される文書に対する信頼を害する行為等についての処罰規定の整備、犯罪収益の新たな没収の裁判の執行等の手続の整備、犯罪捜査のための通信傍受の対象事件の範囲の拡大等の措置を講ずる必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。
はい。書類のペーパレス化や授受のオンライン化、対面手続きのオンライン化など、これまで行政手続でデジタル化が進められてきたような内容が、刑事手続でも可能になるようですね。加えて、罰則規定の整備や操作のための通信傍受の対象拡大なども併せて定められているようです。
(電磁的記録提供命令の新設)
提出理由からだとわからないのですが、今回の法改正では、「電磁的記録提供命令」という制度が新たに設けられていて、こちらが、通信事業者などの負担になることや、SNSなどでの私的なやり取りまで対象になるのでは? といったことが議論になっていました。
かなり大雑把ですが、「電磁的記録提供命令」というのは、捜査機関がオンラインで通信事業者などに事件関連の電子データ(SNSやクラウド)を提出させる制度です。1年以内の期限で、提供命令について漏らさないよう命じることもできることになっています。そして、提供や秘密保持の命令の違反には罰則も設けられています。
このあたりのことは、報道等も数多くされていますので、そちらをご参照いただくのが早いかと思います。。なお、国会での議論を経て、もともとの法案が一部修正されているのですが、その修正の内容(法務省HPにある修正案要綱)を見ると、何が問題になっていたかが逆算的に理解できそうです。

(電子令状の導入)
さて、完全に個人的な関心ですが、今回の法改正で、「電子令状」の制度が導入され、逮捕状や捜索差押令状などをオンラインで請求・発付できるようになり、捜査機関は現地でタブレット端末に表示して執行可能になる、といったことを報道で知りまして、最後にその関係条文を見てみたいと思います。
もう学生時代の古い記憶ですが、、たしか逮捕は199条で、捜索差押は218条だったはず・・・。ありました。
第百九十九条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる。ただし、・・(以下略)
③ 逮捕状は、書面によるほか、裁判所の規則の定めるところにより、電磁的記録によることができる。
第二百十八条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押え、記録命令付差押え、捜索又は検証をすることができる。この場合において、身体の検査は、身体検査令状によらなければならない。
⑥ 第一項の令状は、書面によるほか、裁判所の規則の定めるところにより、電磁的記録によることができる。
今回の改正で、下線の部分がそれぞれ追加されています。「書面によるほか、・・・電磁的記録によることができる」というのが、デジタル法制ぽくて、個人的にはとても味わい深く思います。。
これらの令状は、捜査機関が、裁判所へ足を運んで発行してもらう必要がありましたが(24時間対応できるよう、裁判官の方も当番制で対応してると聞いたこともあります。。)、これからはそうした課題が一定解消されることになると思います。(24時間対応する点は変わらないかもしれませんが。。関係者の皆様、大変お疲れ様です。。)
関心の条文も確認できたので、今回はこれで終わりにします。
(参考)