デジタル化に関する法制度の備忘録

行政手続等のオンライン化やキャッシュレス化など、デジタル化に関する法制度について書いてます。

押印の見直しに関する法改正(2021年)(4)厚生労働省関係

(押印義務の廃止)

 コロナ禍で、押印を求める行政手続の押印義務の廃止が進められていますが、このうち、法律に基づく押印義務については、2021年のデジタル社会形成整備法の中で、一括改正が行われています。

 その実際の改正内容を見ていこうということで、これまで、金融庁総務省法務省財務省関係の法律を見てきましたが、今回は、厚生労働省関係の法律になります。

 

厚生労働省関係の法律)

 厚生労働省関係では、デジタル社会形成整備法で、5つの法律の押印義務が廃止されています。以下、具体的な改正内容を見ていきます。

 

◯死産の届出に関する規程

第四条
③ 航海日誌のある船中で死産があつたときは、死産の届出を船長になさなければならない。船長は、これらの事項を航海日誌に記載して署名捺印しなければ記名しなければならない。

第五条
② 死産届書には、次の事項を記載し、届出人がこれに記名捺印しなければ記名しなければならない。
一〜五 (略)

 

 死産の届出に関する書類への捺印廃止に関するものですが、第4条は、「署名捺印」を「記名」のみとし、第5条、第6条では、「記名捺印」を「記名」のみとする改正内容となっています。全体として、記名のみを残した形になっています。

 なお、この「死産の届出に関する規程」ですが、「法律」ではないので、気になった方もいらっしゃると思います。実際、法令検索をすると「昭和二十一年厚生省令第四十二号」となっていると思いますが、これは、省令が法律扱いとなっている極めて珍しい例です。このような扱いとなった経緯等は、後ほど改めてご紹介します。

 

国民年金

(年金数理関係書類の年金数理人による確認等)
第百三十九条の二 この法律に基づき基金(第百十九条第一項又は第三項の規定に基づき基金を設立しようとする設立委員等を含む。)又は連合会(第百三十七条の五の規定に基づき連合会を設立しようとする発起人を含む。)が厚生労働大臣に提出する年金数理に関する業務に係る書類であつて厚生労働省令で定めるものについては、当該書類が適正な年金数理に基づいて作成されていることを確定給付企業年金法(平成十三年法律第五十号)第九十七条第二項に規定する年金数理人が確認し、署名押印した記名したものでなければならない。

 

 年金数理に関する業務に係る書類への押印廃止に関するものです。ここでも、「署名押印」が「記名」のみに改正されています。確認した年金数理人が誰だか分かればいいという判断なのでしょうかね。

 なお、年金数理というのは、関係団体の用語集によると、年金財政における計量的管理・運営を行うための数学的手法のことだそうです。国民年金法第128条の2で、「基金は、適正な年金数理に基づいてその業務を行わなければならない」とされています。

 

社会保険労務士法

(審査事項等を記載した書面の添付等)
第十七条
3 社会保険労務士又は社会保険労務士法人が前二項の規定による添付又は付記をしたときは、当該添付又は付記に係る社会保険労務士は、当該添付書面又は当該付記の末尾に社会保険労務士である旨を付記した上、記名押印しなければ記名しなければならない。

 

 社会保険労務士が作成する申請書等に、その作成の基礎となった事項の付記等を行う場合の押印廃止を行うものです。これも、「記名」だけが残るパターンです。

 

確定給付企業年金法

(年金数理関係書類の年金数理人による確認)
第九十七条 この法律に基づき事業主等(第三条第一項各号若しくは第七十七条第四項の規定に基づき確定給付企業年金を実施しようとする事業主又は第七十六条第三項の規定に基づき合併により基金を設立しようとする設立委員を含む。)又は連合会(第九十一条の五の規定に基づき連合会を設立しようとする発起人を含む。)が厚生労働大臣に提出する年金数理に関する業務に係る書類であって厚生労働省令で定めるものについては、当該書類が適正な年金数理に基づいて作成されていることを次項に規定する年金数理人が確認し、署名押印した記名したものでなければならない。

 

 年金数理に関する業務に係る書類への押印廃止に関するものです。国民年金法と同様の内容になっています。

 

公的年金制度の健全性及び信頼性の確保のための厚生年金保険法等の一部を改正する法律

 この法律の附則で定められている、存続厚生年金基金に係る年金数理に関する業務に係る書類への押印廃止に関するもので、附則の第5条第2項中の読み替えに関する表の改正のため、条文は省略しますが、内容としては、国民年金法、確定給付企業年金法と同様に、「署名押印」を「記名」のみとする改正内容となっています。

 

 厚生労働省関係の法律改正は、以上の5法律です。

 

(死産の届出に関する規程が法律扱いとなった経緯)

 さて、厚生労働省関係の法律の最初にご紹介した、「死産の届出に関する規定」(厚生省令)の改正が法律で行われている件についてですが、これは、省令が法律扱いとされているためです。具体的には、終戦後、ポツダム宣言の受諾に伴って発せられたいくつかの省令があったのですが、これらの省令について、サンフランシスコ講和条約の発効後にも、法律として残すという法律が、昭和27年に成立しているためです。

 その法律案の提案理由説明について、当時の衆・厚生委員会の議事録の抜粋を載せておきますので、ご参照ください。(青字の部分を見ていただくと、分かりやすいかなと思います。)

 

第13回国会 衆議院 厚生委員会 第10号 昭和27年2月26日

○吉武国務大臣 ただいま議題となりましたポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件に基く厚生省関係諸命令の措置に関する法律案について、提案の理由を御説明いたします。
 日本国との平和條約の効力が発生いたしました場合、昭和二十年制定の勅令第五百四十二号ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件に基いて制定されました諸命令について、しかるべき改廃等の措置を講ずる必要があるのでありますが、厚生省関係のこれらの命令としましては、引揚援護庁設置令、有毒飲食物等取締令、陸軍刑法を廃止する等の政令第七條、死産の届出に関する規程、伝染病届出規則及び引揚者の秩序保持に関する政令があるのでありますが、これらのうち、最後のものを除く五命令は、日本国との平和條約の効力が発生いたしました後におきましても、法律としての効力を持たせる必要がありますので、ここに法律としての効力を有するものとして存続することとしたのであります。但し、これらのうち、引揚援護庁設置令及び死産の届出に関する規程につきましては、字句等について所要の改正を行うことにいたしました。また引揚者の秩序保持に関する政令は、制定当初の目的をほぼ達成いたしまして、将来法律としての効力を持たせ存続させる必要がなくなりましたので、この際これを廃止することにいたした次第であります。
 以上がこの法律案を提出いたしました理由の大要であります。何とぞ愼重御審議の上、すみやかに可決あらんことをお願い申し上げます。

 

 とりあえず、今回は、以上です。最後に、余計なことで、長文になってしまいましたが、そのままスルーすると気持ち悪いと思いましたので、ご容赦ください。次回の国土交通省関係で、2021年の押印見直しの法改正については、一区切りにできると思います。

 

(参考)

www.clb.go.jp

www.pfa.or.jp

hourei.ndl.go.jp