(押印義務の廃止)
コロナ禍で、押印を求める行政手続の押印義務の廃止が進められていますが、このうち、法律に基づく押印義務については、2021年のデジタル社会形成整備法の中で、一括改正が行われています。
これまで、4回にわたって、省庁ごとに関係法律を見てきましたが、今回の国土交通省関係の法律で最後になります。
(国土交通省関係の法律)
国土交通省関係では、デジタル社会形成整備法で、6つの法律の押印義務が廃止されています。以下、具体的な改正内容を見ていきます。
◯建築士法
(業務に必要な表示行為)
第二十条 一級建築士、二級建築士又は木造建築士は、設計を行つた場合においては、その設計図書に一級建築士、二級建築士又は木造建築士である旨の表示をして記名及び押印をしなければ記名しなければならない。設計図書の一部を変更した場合も同様とする。
設計図書への押印の廃止に関するものです。第20条の2、第20条の3でも、同様の改正がなされています。なお、「設計図書」とは、建築物の建築工事の実施のために必要な図面及び仕様書のことだそうです(第2条第6項に定義があります)。
(重要事項の説明等)
第三十五条
5 第一項から第三項までの書面の交付に当たつては、宅地建物取引士は、当該書面に記名押印しなければ記名しなければならない。
7 宅地建物取引業者は、前項の規定により読み替えて適用する第一項又は第二項の規定により交付すべき書面を作成したときは、宅地建物取引士をして、当該書面に記名押印させなければ記名させなければならない。
(書面の交付)
第三十七条
3 宅地建物取引業者は、前二項の規定により交付すべき書面を作成したときは、宅地建物取引士をして、当該書面に記名押印させなければ記名させなければならない。
宅地建物の売買契約等に係る重要事項説明書等への押印の廃止に関するもので、これらの条文では、押印義務が廃止され、「記名」のみが残っています。
一方で、媒介契約について定める第34条の2では、押印義務は廃止されていませんが、電子署名を行って、電磁的方法で提供することができるようにする改正が行われています。(以下のように、第34条の2に、第11項が追加されています。)
(媒介契約)
第三十四条の二 宅地建物取引業者は、宅地又は建物の売買又は交換の媒介の契約(以下この条において「媒介契約」という。)を締結したときは、遅滞なく、次に掲げる事項を記載した書面を作成して記名押印し、依頼者にこれを交付しなければならない。
一〜八 (略)
11 宅地建物取引業者は、第一項の書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、依頼者の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法をいう。以下同じ。)であつて同項の規定による記名押印に代わる措置を講ずるものとして国土交通省令で定めるものにより提供することができる。この場合において、当該宅地建物取引業者は、当該書面に記名押印し、これを交付したものとみなす。
(鑑定評価書等)
第三十九条
2 鑑定評価書には、その不動産の鑑定評価に関与した不動産鑑定士がその資格を表示して署名押印しなければ署名しなければならない。
不動産鑑定業者が交付する鑑定評価書への押印の廃止に関するものです。「署名押印」から「署名」のみへと改正されています。
◯不動産特定共同事業法
(不動産特定共同事業契約の成立前の書面の交付)
第二十四条
2 不動産特定共同事業者は、前項の規定により交付すべき書面を作成するときは、業務管理者をして、当該書面に記名押印させてなければ記名させなければならない。
不動産特定共同事業契約の成立前に交付する書面等への押印の廃止に関するものです。この第24条のほか、第25条、第28条でも同様の改正が行われています。
不動産特定共同事業というのは、不動産を小口化して投資対象にするようなものですね。(「み◯なで大家さん」とかみたいな。。)
(重要事項の説明等)
第七十二条
5 マンション管理業者は、第一項から第三項までの規定により交付すべき書面を作成するときは、管理業務主任者をして、当該書面に記名押印させなければ記名させなければならない。
マンション管理業者による管理受託契約に係る重要事項説明書への押印の廃止に関するものです。第73条でも同様に、「記名押印」を「記名」のみとする改正が行われています。このほか、第109条の違反行為に関する規定でも「記名押印のない書面」が「記名のない書面」と改正されています。
◯不動産取引の円滑化のための地価公示法及び不動産の鑑定評価に関する法律の一部を改正する法律
(鑑定評価書等)
第三十九条
2 鑑定評価書には、その不動産の鑑定評価に関与した不動産鑑定士又は不動産鑑定士補がその資格を表示して署名押印しなければ署名しなければならない。
不動産鑑定士補による鑑定評価書への押印の廃止に関するものです。「不動産の鑑定評価に関する法律」が改正された際に、経過措置として、効力を有している部分についての押印を廃止するものなので、「改正法の改正」という形になってますが、内容としては、2つ前に紹介した「不動産の鑑定評価に関する法律」と同様のものです。
国土交通省関係の法律改正は、以上の6法律です。
これで、2021年のデジタル社会形成整備法で改正された、押印見直しに関する22法律については、一通り見ることができました。次は、書面の見直しに関する32法律を見るべきなんでしょうけど、少し簡略化してご紹介できる方法を考えてみたいと思います。
(参考)