市役所などの行政機関への申請や届出の手続がスマホなどからオンラインでできる機会が増えてきています。これは、2000年以降、徐々に進められてきた行政手続などのオンライン化の動きが、コロナ禍で一気に加速化されたものですが、その背景には手続等を定める法制度のデジタル化があります。
こうした行政手続のデジタル化に関する法制度について、簡単にまとめておきたいと思います。その二回目になります。
デジタル化に関する基本法の制定
IT基本法(2000年)
「IT基本法」は、2000年に制定されたデジタル化に関する基本法で、正式名称は、「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法」です。より正確には、高度情報通信ネットワーク社会の形成に関して、基本理念と基本的な施策の枠組みを定めた法律ですが、大雑把に言えば。デジタル化(とは、当時はいってませんが)に関する基本理念等を定めた基本法と考えて良いと思います。
IT基本法の目標は高度情報通信ネットワーク社会の形成ですので、デジタル化の対象は行政分野に限られませんが、行政の情報化の推進については、第20条に条文が置かれているように、重要な要素となっています。また、第13条には、施策の実施のために必要な法制上の措置を講ずることが定められていて、その後、行政手続オンラン化法などの法律が制定されていった流れは、前回ご紹介したとおりです。
◯高度情報通信ネットワーク社会形成基本法(平成十二年法律第百四十四号)
(行政の情報化)
第二十条 高度情報通信ネットワーク社会の形成に関する施策の策定に当たっては、国民の利便性の向上を図るとともに、行政運営の簡素化、効率化及び透明性の向上に資するため、国及び地方公共団体の事務におけるインターネットその他の高度情報通信ネットワークの利用の拡大等行政の情報化を積極的に推進するために必要な措置が講じられなければならない。
(法制上の措置等)
第十三条 政府は、高度情報通信ネットワーク社会の形成に関する施策を実施するため必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講じなければならない。
なお、IT基本法は、その後、2021年にデジタル社会形成基本法が制定された際に廃止されています。現在の法体系としては、デジタル社会形成基本法がデジタル化の推進(デジタル社会の実現)に関する政策目標等を定めています。
デジタル社会形成基本法(2021年)
「デジタル社会形成基本法」は、デジタル社会の形成に関して、基本理念や基本的な施策の枠組みを定めている法律です。2021年に、IT基本法は廃止され、新たに、このデジタル社会形成基本法が制定されました。
デジタル社会形成基本法では、デジタル社会の形成に関して、基本理念や施策の基本方針、国・地方公共団体・事業者の責務、デジタル庁の設置、重点計画の作成などについて定められています。
行政手続については、第9条で、国・地方自治体の役割として、「国民の利便性の向上並びに行政運営の簡素化、効率化」という内容が掲げられており、より手続のデジタル化が意識された規定が置かれていると思われます。また、行政のデジタル化については、第29条(国及び地方公共団体の情報システムの共同化等)、第30条(国民による国及び地方公共団体が保有する情報の活用)、第31条(公的基礎情報データベースの整備等)等に、より具体的な規定が置かれています。
◯デジタル社会形成基本法(令和三年法律第三十五号)
(国及び地方公共団体と民間との役割分担)
第九条 デジタル社会の形成に当たっては、民間が主導的役割を担うことを原則とし、国及び地方公共団体は、民間の知見を積極的に活用しながら、公正な競争の促進、規制の見直し等デジタル社会の形成を阻害する要因の解消その他の民間の活力が十分に発揮されるための環境整備並びに公共サービス(公共サービス基本法(平成二十一年法律第四十号)第二条に規定する公共サービスをいう。第二十九条において同じ。)における国民の利便性の向上並びに行政運営の簡素化、効率化及び透明性の向上並びに公正な給付と負担の確保のための環境整備を中心とした施策を行うものとする。
その他の基本法
デジタル化に関する基本法としては、上記のほか、「サイバーセキュリティ基本法(2014年)」「官民データ活用推進基本法(2016年)」といった法律が、いずれも議員立法として制定されています。
2000年にIT基本法が成立した後に、ITの進展により⽣じた社会経済構造の変化に対応するために、新たな法律として制定されたものといえると思います。セキュリティの確保やビッグデータの活用といった新たな課題に対応するもので、大変重要な内容を定める法律ですが、行政手続のデジタル化を直接推進するというものではありませんので、ここでは、簡単な紹介にとどめておきたいと思います。
最近の動き
政府のデジタル臨時行政調査会では、現在、デジタル化を阻害しているアナログ規制を一掃するため、「面の改革」「テクノロジーベースの改革」「将来の改革」という「3つの特徴」を持った改革が進められています。
「デジタル社会の形成を阻害する規制の見直し」については、デジタル社会形成基本法の第9条でも、国・地方自治体の役割として規定されていますが、現在のデジタル臨調の進める「テクノロジーベースの改革」「将来の改革」などは、基本法の理念を更に進めるための新しい手法となっているものと思われます。