スマホでなどを使ったオンラインでの取引などの機会が増えてきています。こうしたことの背景には、2000年以降、徐々に進められてきた社会のデジタル化を支える法制度の整備があります。電子契約を安心して行うための電子署名の仕組みなどの基盤の整備や、民間手続に関する規制のデジタル化に関する法制度について、簡単にまとめておきたいと思います。
デジタル化に関する法制度の展開
基本法の制定
これまで、行政手続等のデジタル化に関して、2000年以降に法制度が展開されてきたことを述べてきましたが、このような流れは、民間手続等に関しても同じで、2000年のIT基本法の制定が、デジタル化に関するその後の法制度の展開につながる一つの出発点となっています。
IT基本法では、デジタル社会(高度情報通信ネットワーク社会)の形成に関して、「民間が主導的役割を担うことを原則」とすることを理念規定として定めており(第7条)、この理念は、2021年に制定されたデジタル社会形成基本法にも引き継がれています(第9条)。
なお、IT基本法が成立した後に、デジタル化の進展により⽣じた社会経済構造の変化に対応するために制定された「サイバーセキュリティ基本法」「官民データ活用推進基本法」については、ここでは紹介にとどめておきます。
◯IT基本法(2000年)
◯サイバーセキュリティ基本法(2014年)
◯官民データ活用推進基本法(2016年)
◯デジタル社会形成基本法(2021年)
民間手続に関する法律の制定(規制の緩和)
IT基本法の第13条には、施策の実施のために必要な法制上の措置を講ずることが定められていましたが、この規定を受けて、2004年には、民間事業者等による文書の作成・保存・交付等に関するデジタル化を可能とするe-文書法が制定されました。
また、IT基本法、e-文書法が制定された際に、それぞれ民間事業者間での書面の交付などを義務付ける個々の法律(49法律、73法律)の規定をデジタル化するための一括的な法改正(IT書面一括法、e-文書法整備法)が行われています。
その後、2021年にデジタル社会形成基本法が制定された際にも、書面・押印を定める個々の法律(48法律)の規定が一括法で改正されています(デジタル社会形成整備法)。
◯IT書面一括法(2000年) ※49本の法律の一括改正
◯e-文書法(通則法)(2004年)
◯e-文書法整備法(2004年) ※73本の法律の一括改正
◯デジタル社会形成整備法(2021年) ※48本の法律の一括改正
なお、このほかに、国税関係の文書の作成・保存等については、電子帳簿保存法が別途制定されています。国税関係の手続ということでもご紹介しましたが、民間事業者等の税務関係書類のデジタル化を推進するものでもありますので、ここでもご紹介しておきます。
◯電子帳簿保存法(1998年)
電子契約に関する基盤の整備(法制度の整備)
民間手続に関する書面規制の緩和に加え、民間での電子契約を推進するための基盤を整備する法律も制定されました。まず、電子署名の定義や電子契約における法的効力等を定める電子署名法が、2000年に制定され、2001年4月に施行されています。(余談ですが、IT基本法より電子署名法の方が、提案・成立は早いです。)
その後、電子契約については、電子消費者契約に関する民法の特例に関する法律(2001年)、電子委任状の普及の促進に関する法律(2017年)などの法律も制定されています。
また、直接的に電子契約に関するものではありませんが、2009年には、金銭の決済に関する事業についてのルールを定める「資金決済に関する法律」(資金決済法)が制定され、◯◯ペイなどの新たなサービス(「前払式支払手段発行業」)への対応等が図られています。
なお、電子契約自体については、民法で当事者の合意のみで契約が成立することが定められていましたが、2020年に施行された改正民法で「契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない」と明文化されています(民法第522条第2項)。
◯電子署名法(2000年)
◯電子消費者契約に関する民法の特例に関する法律(2001年)
◯資金決済に関する法律(2009年)
◯電子委任状の普及の促進に関する法律(2017年)
最近の動き
契約の電子化を困難にする規制の一つに、特定商取引法によるクーリングオフ書面交付の義務がありますが、2021年の通常国会において、書面交付義務を緩和し電磁的方法を認める法改正が成立しています。