デジタル化に関する法制度の備忘録

行政手続等のオンライン化やキャッシュレス化など、デジタル化に関する法制度について書いてます。

(まとめ)デジタル化に関する法制度(行政手続編)③主な法律

 市役所などの行政機関への申請や届出の手続がスマホなどからオンラインでできる機会が増えてきています。これは、2000年以降、徐々に進められてきた行政手続などのオンライン化の動きが、コロナ禍で一気に加速化されたものですが、その背景には手続等を定める法制度のデジタル化があります。
 こうした行政手続のデジタル化に関する法制度について、簡単にまとめておきたいと思います。その三回目(最終回)になります。

行政手続のデジタル化に関する主な法律

デジタル手続法 

 行政手続のデジタル化に最も大きな役割を果たしている法律として、デジタル手続法という法律があります。正式名称は、「情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律」で、行政手続のオンライン化を進める「行政手続オンライン化法」が、2019年に改正されてできた法律です。

 行政手続については、申請や届出などを定める法令で、「申請書の提出」「報告書の届出」など、書面で行うことを定める場合が数多くあります。これらの法令に基づいて手続を行う場合、書面でなくオンラインで行うと、法的効力は認められないこととなります。

 このような状況に対応するため、デジタル手続法は、他の法令で書面等による手続を定める規定がある場合に、デジタル化を可能にするための特例規定を整備するものとなっています。デジタル手続法が通則法的に適用されることで、個別の法令の改正は不要となります。より正確には、デジタル手続法に基づく主務省令で規定することで、手続等のデジタル化が可能となるのですが、いずれにしても、個別の法令改正を経なくとも、各府省で省令改正を行うことで対応できるため、手続のデジタル化が極めて効率的に可能となります。

 行政手続のデジタル化の特例を定める規定は、デジタル手続法の第6条から第9条までに置かれていますが、参考まで、申請等について定める第6条の規定を引用しておきます。

◯デジタル手続法(平成十四年法律第百五十一号)
(電子情報処理組織による申請等)
第六条 申請等のうち当該申請等に関する他の法令の規定において書面等により行うことその他のその方法が規定されているものについては、当該法令の規定にかかわらず、主務省令で定めるところにより、主務省令で定める電子情報処理組織(行政機関等の使用に係る電子計算機(入出力装置を含む。以下同じ。)とその手続等の相手方の使用に係る電子計算機とを電気通信回線で接続した電子情報処理組織をいう。次章を除き、以下同じ。)を使用する方法により行うことができる。
2〜6 (略)

 第2項以下は、省略しましたが、オンラインで申請等行う場合の到達時期(第3項)や、署名・押印等の電子署名での代替(第4項)、手数料のキャッシュレス納付(第5こう)などの規定が置かれています。

 こうしたデジタル手続法の規定に基づく主務省令としては、例えば、以下のような府省令が制定されています。
国土交通省の所管する法令に係る情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律施行規則(平成十五年国土交通省令第二十五号)
国税関係法令に係る情報通信技術を活用した行政の推進等に関する省令(平成十五年財務省令第七十一号)

 また、順番が後先になったかもしれませんが、デジタル手続法第2条では、デジタル化の基本原則として、以下の3つの原則が定められており、行政手続のデジタル化を推進する上での基本的な考え方として重要な役割を果たしています。

①デジタルファースト:個々の手続・サービスが一貫してデジタルで完結する
②ワンスオンリー:一度提出した情報は、二度提出することを不要とする
③コネクテッド・ワンストップ:民間サービスを含め、複数の手続・サービスをワンストップで実現する

 このほかにも、デジタル手続法には、様々な規定が置かれていますが、今回は深入りをせずにおきたいと思います。

 

公的個人認証法 

 オンラインで行政手続等を行う際に、他人による「なりすまし」やデータの改ざんを防ぐための本人確認の手段が必要となりますが、公的個人認証法は、そうした要請に対応できる、高度な個人認証サービスに関する制度を構築する内容の法律となっています。正式名称は、「電子署名に係る地方公共団体の認証業務に関する法律」です。

 この法律によって、都道府県知事の発行する電子証明書の提供を受け、利用することができるようになります。より具体的に言うと、「電子証明書」と呼ばれるデータをマイナンバーカード等のICカードに記録することで利用が可能となります。電子証明書には、署名用電子証明書と利用者証明用電子証明書の2種類がありますが、ここでは深入りは避けておきます。

 いずれにしても、公的個人認証法では、書面での署名・押印に代えて、マイナンバーカード等に格納された「電子証明書」を使って手続を行うことができるよう、基盤となる制度が定められているわけです。

 なお、余談となってしまいますが、マイナンバーカードのICチップに記録されている個人認証用の電子証明書(データ)は、氏名や住所、顔写真などのマイナンバーカードの券面の情報です。(ICチップに税や年金などの情報が入っているの誤解されている方もいるようですが、そういう情報はICチップには記録されていません。)

 

行政キャッシュレス化法 

 行政キャッシュレス化法は、国への納付金の支払い方法の多様化を進める内容の法律で、昨年4月に制定されたものです。正式名称は、「情報通信技術を利用する方法による国の歳入等の納付に関する法律」です。

 国に納める納付金について、個別の法律ではキャッシュレスでの支払いが認められていない場合でも、行政キャッシュレス化法に基づく主務省令で定めることで、クレジットカードや電子マネー、コンビニ決済などデジタルを活用したキャッシュレスでの支払いが認められるようになります。通則法的に適用されることで、個別の法令を改正しなくて済むという仕組みとは、デジタル手続法と同様です。

 なお、この法律で対象となるのは、国に納める納付金ですので、交通反則金、パスポートや車検の手数料などが、対象となります。

 

公金受取口座登録法

 行政キャッシュレス化法は、国への納付金についてのものでしたが、国からの給付金等を受け取る場面でのキャッシュレスを可能にするものとして、公金受取口座登録法が2021年に制定されています。正式名称は、「公的給付の支給等の迅速かつ確実な実施のための預貯金口座の登録等に関する法律」です。

 マイナポータル等から預貯金口座の登録ができるようにし、緊急時の給付金や児童手当などの公金給付に、登録した口座の利用を可能とするものとなっています。

 なお、本人の同意を前提に、預貯金口座とマイナンバーの紐付け等を行い、相続時や災害時に、預貯金口座の所在を国民が確認できる仕組みを創設する「預貯金者の意思に基づく個人番号の利用による預貯金口座の管理等に関する法律」(預貯金口座管理法)も2021年に制定されています。

 

 以上、駆け足に過ぎたかもしれませんが、主な法律の概要は概ね触れられたかなと思います。より詳しい法令の規定などは、デジタル庁のHPをご参照ください。

www.digital.go.jp