(著作権法の一部を改正する法律)
今年の通常国会で成立した法律のうち、デジタル関係の法改正を見ていく16回目です。今回は、閣法51号として提出された「著作権法の一部を改正する法律」について見てみます。
提出理由は、以下の通りです。
著作物等の公正な利用を図るとともに著作権等の適切な保護に資するため、立法又は行政の目的のために内部資料として必要と認められる場合等に著作物等の公衆送信等を可能とする措置、著作物等の利用の可否に係る著作権者等の意思が確認できない場合の著作物等の利用に関する裁定制度を創設する等の措置及び著作権等の侵害に対する損害賠償額の算定の合理化を図る措置について定める必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。
文科省から提出されている法律です。
(改正の概要)
法案の概要資料を見ると、改正の概要としては、以下の3点が記載されています。
1.著作物等の利用に関する新たな裁定制度の創設等
① 利用の可否に係る著作権者等の意思が確認できない著作物等の利用円滑化
② 窓口組織(民間機関)による新たな制度等の事務の実施による手続の簡素化
2.立法・行政における著作物等の公衆送信等を可能とする措置
① 立法又は行政の内部資料についてのクラウド利用等の公衆送信等
② 特許審査等の行政手続等のための公衆送信等
3.海賊版被害等の実効的救済を図るための損害賠償額の算定方法の見直し
① 侵害品の譲渡等数量に基づく算定に係るライセンス料相当額の認定
② ライセンス料相当額の考慮要素の明確化
これらのうち、デジタルと関係の深いのは、2の立法・行政における著作物等の公衆送信等を可能とする措置になります。
インターネット上で情報を発信する「公衆送信」については、以前の記事で、著作権法で定義が置かれていることを紹介したところですが、クラウドを利用する場合の情報のやり取りも「公衆送信」に該当するため、規定の整備がなされたわけですね。
(立法・行政でのクラウド利用への対応)
「立法や行政の目的のために、内部資料として必要と認められる場合には、必要と認められる限度で、著作物を複製することができる」と、従来からされています。
ですが、クラウドサービスを利用して複製を保存する場合には、複製に加え、インターネット上での著作物の発信等がなされるため、今回の改正で、「立法や行政の目的のために内部資料として必要と認められる場合には、必要な限度において、内部資料の利用者間に限って著作物等を公衆送信等できることとする」という規定が追加されました。
改正後の条文は、以下のようになっています。(赤字が今回追加された部分です。)
この改正の施行は、令和6年1月1日とされています。
◯著作権法(昭和四十五年法律第四十八号)
(立法又は行政の目的のための内部資料としての複製等)
第四十二条 著作物は、立法又は行政の目的のために内部資料として必要と認められる場合には、その必要と認められる限度において、複製し、又は当該内部資料を利用する者との間で公衆送信を行い、若しくは受信装置を用いて公に伝達することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びにその複製の部数及びその複製、公衆送信又は伝達の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
特許審査の方は、審判手続のデジタル化対応に関する内容です。詳しくは、文科省の概要資料等をご参照ください。