デジタル化に関する法制度の備忘録

行政手続等のオンライン化やキャッシュレス化など、デジタル化に関する法制度について書いてます。

公印の見直しについて

(公印の見直し)

 コロナ禍での様々な行政手続のデジタル化の関係で、申請書類等の押印の見直しが進められましたが、その際に、公印の見直しを進めている自治体も一定数あるようです。(国の押印見直しでは、公印については、明示的に見直すこととはされておらず、見直されたものも内部手続に関するもののようなので、とりあえず、自治体に注目してみました。)

 HP等で、各自治体の公印見直しの事例をいくつか見てみると、概ね、以下の場合以外の公印を省略するというパターンが多いようです。

 ①許認可等の処分文書

 ②事実証明の文書

 ③権利義務関係の文書(契約書等)

 ④法令等の規定で押印が必要な文書

 ⑤その他特に必要な場合(表彰状等)

 逆に言うと、①〜⑤については、公印の押印が残っています。①②については、デジタル化されているものや、コンビニ交付で対応されているものがありますし、③は、電子契約が可能な気がしますが、いずれにしても、法令等で定められていてはどうしようもない気がしますので、どのような定めが法令で置かれているのか、少し例を見てみたいと思います。

 

(法令等で公印を必要とする例)

 例えば、戸籍法施行規則には、以下のような定めが置かれています。

 

第七十三条 戸籍法第百二十条第一項の戸籍証明書又は除籍証明書(以下「戸籍証明書等」という。)には、次の各号の区分に応じ、それぞれ当該各号に掲げる事項を記載する。
(略)
 戸籍証明書等には、市町村長が、その記載に接続して付録第二十三号書式による付記をし、職氏名を記して職印を押さなければならない
(略)

 

 なぜ戸籍法の例を出したかというと、コンビニ交付で、戸籍証明書に公印の印影が印刷されなかったというニュースがあったからです。(というか、そのニュースを紹介するブログの記事で知ったのですが、いずれも参考欄にリンクを載せておきます。)

 印影の印刷で対応できるなら、PDFでも大丈夫そうだな、、と思う一方で、今度は、印影の印刷が、公印の押印と言えるのかな、、と新たな疑問が出てきました。

 

(印影の印刷)

 先程の戸籍証明書の公印のように、公印の印影が印刷されているものを見ることも多いです。これは、運用で認められているんだろうなと何となく思っていましたが、省令で規定されているものを2つ見つけることができましたので、ご紹介しておきます。(確かに免許証には、公安委員会の印影が印刷されてます。)

 

道路交通法施行規則
(免許証の記載事項等)
第十九条 (略)
2 法第九十二条第一項の免許証の様式は、別記様式第十四(仮免許に係るものにあつては、別記様式第十五)のとおりとする。
3 免許証には、当該免許証を交付した公安委員会(次条において「交付公安委員会」という。)の名称及び公印の印影並びに免許を受けた者の写真を表示するものとする
4 (略)

道路交通法施行規則別記様式第十四

 

◯国の会計機関の使用する公印に関する規則
(公印印影の印刷)
第八条 国の会計機関が作成する文書(小切手、国庫金振替書、支払指図書及び現金等の領収を証する書類を除く。)で、一定の字句及び内容のものを多数印刷する場合において、支障がないと認められるときは、その公印の印影を当該文書と同時に印刷して公印の押印にかえることができる

 

 以上は、法令で印影の印刷が認められている例ですが、多くは、訓令等で定められている、各府省の公印規程などで、運用上、印影の印刷が認められているものと思われます。以下は、厚生労働省の公印規程の抜粋です。(なお、訓令というのは、行政組織内部のルールと思ってもらえればいいと思います。)

 

厚生労働省公印規程

(公印の印影の印刷)

第9条 公印を多数の文書に押印する必要があるときは、当該公印の印影を文書に印刷して当該公印の押印に代えることができる。この場合においては、あらかじめ、印刷部数及び印刷を必要とする理由を明らかにして、第4条第1項第1号に掲げる公印にあっては大臣官房人事課長の決裁を経て大臣官房総務課長の決裁を、同項第2号又は第3号に掲げる公印にあってはそれぞれの号に定める者の決裁を受けなければならない。

 

 公印規程の例を見てみると、印影印刷の場合も、決裁の手続はありますし、管理簿に記録も残されるので、物理的に手で押すのと変わらないかな、、と個人的には思ったんですが、一方で、先程ご紹介したブログでは、このような印影の印刷について、「印影の本来の意味を考えることなく惰性で発想された、まさに「なんでも押印行政」の象徴」と厳しく指摘されていました。詳しくは、原文をご参照ください。

 

 デジタル化の観点からは、公印は、電子署名のような形で代替されていく流れなのでしょうけど、奈良時代から大宝律令に基づいて公文書に用いられてきた公印(官印)には、どうしても特別な思いを持ってしまいます。客観的になりきれないので、とりあえず、今日はこれで。

 

(参考)

www.sanyonews.jp

www.cloudsign.jp